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人員過剰のパラドックス

ストレスの原因のうち分かりやすいものの1つに人手不足があげられる。
人件費が削減され、オーバーヘッドとなる職務は統合され、その結果、以前は11人でしていたことを9人でやっていかなければならない。
これは確かに、よくある種類のストレスである。
ストレス過剰の組織は、いつも人手不足だといいたくなる。
それがあらゆるストレスの第一の原因だと。
そういいたい気持ちは分かるが、そうではない。
人員過剰が問題になる場合もある。
人員過剰がストレスの原因であり、その対策の一環として余計に人手を増やしてしまうことがある。
これを理解するために、新しいプロジェクトの管理者に任命されたと想像する。
プロジェクトの目標は、会社の主力製品の真新しい、今までとは全く違うバージョンを開発すること。
もちろん、このようなプロジェクトを全力疾走以下のスピードで進めていいはずがない。
このプロジェクトには会社の命運がかかっており、1年後には絶対に完成させなければならない。
社長自身が来年の9月30日までに出荷すると公表している。
経験豊富な管理者の目で見れば、9月30日は何があろうと不可能だ。
非現実的なスケジュールであるばかりか、まともな目標にもならない。
管理者も、他の誰も、このスケジュールは信じていない。
そこで一縷の望みを持って、上司のところへもう少し余裕がほしいといいに行く。
9月30日の期日には間に合いそうにないと告げる。
頑として上司は言う。
「間に合わせなければダメ。期日に間に合うために必要な人員は全て割り当てる。何人必要?」
「設計者が3人、インターフェース設計の専門化が少なくとも1人、システムアーキテクトが1人、テストと品質保証の担当が1人、後自分、最初はこの6人。5月か6月から20人ぐらい必要。でも、この理想的な人員構成でも・・・」
「60人連れていきなさい。今日60人、年末までに150人。それならできるはず」
ここでジレンマが生じる。
挑戦状が叩きつけられた。
自分が60人~150人のスタッフを管理できる一流管理者なのか、それともほんの少しのスタッフしか管理できない二流管理者に過ぎないのか。
1つだけ確かなことがある。
自分の立場を変えずに、当初予定の6人だけでプロジェクトを運ね異すれば、期日に遅れた場合、自分が挑戦を受けて立とうとしなかったせいだということになる。
プロジェクト業務の性質として、何を作る場合であろうと、最初の概念設計が肝心である。
しかし、このような概念設計の作業は大勢の人間ではできない。
設計に関する大まかな決定を下す段階では、せいぜい6人程度で作業するのが適当である。
この段階でプロジェクトに後50人もつぎ込んでも、作業が遅くなるだけ。
さらに悪いことに、これだけの人材がいるからには、この人たちの仕事を見つけるのが管理者としての努めである。
こうなると、悲惨な選択肢しかない。
これだけの人数に仕事を割り当てると、何時までたっても概念設計の段階から抜けられない。
全体を分割する作業は設計の本質でもあるが、設計上の配慮ではなく、人員配置への配慮にしたがって仕事を分割せざるを得なくなる。
その結果、凡庸、あるいは非道設計が出来上がることは間違いなく、プロジェクトは早々と頓挫する。
何が起きたのかを考えてみよう。
プロジェクトに人員を投入しすぎると、少人数の場合より完成までに時間がかかる。
しかし、そんなことは重要ではない。
納期を守ることなどたいした問題ではない。
大事なのは、納期を守るためにあらゆる手を尽くしたように見せかけること。
この野心と欲望の時代に、わずかな(最適の)人数でプロジェクトを運営するのは、危険なこと。
by shokunin_nin | 2011-01-22 22:15 | 仕事
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