退職にまつわる無駄なコスト

開発者の退職は、予想外のコストを引き起こす。
埋め合わせでできる人材の確保には時間がかかり、新規採用又は、他部署からの転任が可能だとしても、プロジェクトの生産性は著しく落ちる。

退職者が担当していた技術分野にもよるが、専門的であればあるほど、その埋め合わせには時間がかかり、その時間は一般に考えられているより長く、約2年くらいかかる。
問題なのは、この埋め合わせコストは経理上の数字には現れてこないこと。
人材を教育するためのコストはそのまま人件費として計上される。
したがって退職者が出ても、本来なら損失であるべき人の持つ技術が、会計上は損失となって現れてこない。

退職にまつわるコストには目に見えない部分が多くある。
退職者が一人出ると、同じチームや社内で、さらに退職者が出る可能性が高くなる。
大企業に就職した新人も、数年すると何人かは退職していくが、最初の人がきっかけになって続々とやめていくというのはよくあること。
そして、こういった下人から退職率が高くなってしまった企業には、単なる人材損失のコスト以外にも隠れたマイナス効果が発生する。
平均在職期間が、例えば5~6年であるような会社では、企業活動の取り決めも5~6年の単位で考える風習が根付くことになる。
短期的な市や、ビジョンで企業活動の決断を行うと、目標設定も常に短期的になり、企業が持っている本来の利益獲得機会を失ってしまう。


従業員が会社を辞める3つの理由
1.腰掛メンタリティ
2.使い捨てにされる予感
3.会社への無忠誠心

管理者達は、常日頃から従業員のこのような気持ちの変化に敏感でなくてはならない。


アメリカの話だが、年間退職率は33~80%で、これを平均在職期間から見ると15~36ヶ月。
平均的にみると、社員は2年ちょっとでやめている。
人一人を採用するコストは給与の1.5~か月分で、これは、人材紹介者への報酬、あるいは、同じ業務を行う自社の人事部門の経費。
従業員がひとたび採用されると、すぐにプロジェクトの作業に付き、働いた時間はプロジェクトのコストに賦課される。
この場合、立ち上がりに要する無駄なコストは、表面には全く現れない。
しかし、これは経理上の見せ掛けに過ぎない。
新人は最初は全く役に立たないし、ひどい場合は足を引っ張る。
誰かがその新人の仕事を軌道に乗せるために余計な時間を費やすから。
数ヶ月経つと、新人は少しは役に立つ仕事をし始める。
5ヶ月以内には、一人前として使えるようになる。
したがって、立ち上がりの無駄なコストの見積りは、ざっと見て、一人当たり3ヶ月分の人件費相当というのが妥当である。(仕事の内容が難しい場合は、もちろんこれよりずっと余計にかかる)
人が入れ替わる差異の全コストは、結局4.5~5か月分の人件費、あるいは2年間働く平均従業員にかかるコストの20%に相当する。

従業員の退職は、全人件費の20%のコストを費やす。
しかし、これは目に見える部分だけ。
実際にはこれよりはるかに多い、おぞしい見えないコストが存在する。
退職率の高い企業では、社員はどうせそこにはあまり長くいないことがわかっているから、徹底して短期に物事を考える傾向がある。
退職率の高い企業では、誰もが長期的に物事を考えようとはしない。
銀行であれば、貸し倒れが十分に考えられる会社にも貸し付けるだろう。
例えば、どんなに危ない会社であっても、22%という貸出金利は、この四半期の決算にはたまらない魅力だから。
当然、その会社は2年後には債務返済不能に陥るだろうが、その時には不良貸付をした人は、もう銀行にはいない。
農業経済を同様の考えで運営したとすると、種用とうもろこしを今食べてしまって、翌年は飢えに苦しむのと同じ。

1年や2年の視点にこだわるのなら、優れた人材を辞めさせない唯一の方法は、早く昇進させることしかない。
こうすると、ほとんど初心者に近い人が、上級の管理職に就くことになる。
人員構成についてもおかしなことが起きる。
ある人が、40年の会社生活の中で、5年間は技能者として働き35年間は管理職として働いたとする。
これは職制のピラミッドが極めて高くて裾野が狭いことを意味する。
15%の従業員が85%の管理職を養って実際の仕事をしている。
実際の作業者が費やすコストはわずか10%で、残り90%は管理者の報酬として支払われる。
構造がいたずらに頭でっかちになるばかりでなく、それは底辺にいる人々を水準以下にする傾向がある。
この傾向はどの産業でも見られるが、退職率の高い会社では特に著しい。
重厚で成熟しきった会社が生み出す製品が、平均20歳代、経験1~2年の従業員によって開発されている、といったことは決して珍しくない。

早く昇進させる会社は行動力がある、と信じている人は多い。
若い従業員は貧欲に前進しようとするから、それは当然。
しかし、組織論的観点から言えば、昇進が遅いのは健全な印。
退職率の低い会社では、最下位の管理者層への昇進は、その会社に10年ぐらい勤めてからやってくる。
(例えば、IBMの中でもっとも強力なある組織では、実際に昇進するスピードはきわめて遅かった。)
そういう会社では、最底辺にいる従業員の平均経験年数は最低5年で、階層は少なく平坦である。

退職率が最も低い会社に共通した特徴
ずっと勤め続けることが期待されているという感覚が持てる何か
生涯教育プログラムの充実

再教育は新しい職場の要員を確保するための最も安上がりなやり方ではない。
短期的に見れば、再教育すべき人をクビにして、既に必要な技能を持っている人を雇った方が安上がり。
ほとんどの組織はそうやっている。
裁量の組織はそうはしない。
再教育が永続性のメンタリティを育て、結果として低い退職率と強いコミュニティー感覚を生むことを認識している。
それがコストの問題よりもずっと大切であることをよく認識している。
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by shokunin_nin | 2009-05-31 11:02 | 仕事 | Comments(0)
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